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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)12484号 判決

原告

福田博幸

右訴訟代理人弁護士

奥川貴弥

上條義昭

被告

株式会社アール・エフ・ラジオ日本

右代表者代表取締役

駒村秀雄

右訴訟代理人弁護士

竹内桃太郎

石川常昌

主文

一  原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、金一一〇七万九一二四円及び平成二年一月以降毎月二五日限り金三九万五六八三円を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は、原告に対し、金三七二万三四〇〇円及びこれに対する平成元年一二月二二日から支払ずみまで年六分の割合による金員並びに昭和六二年九月以降毎月二五日限り金三九万五六八三円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  2項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、放送事業等を目的とする株式会社である。

2  原告は、被告に昭和四五年四月一日試用社員として入社し、昭和六二年八月三一日当時は被告の編成局報道部課長であった。

3  被告は、昭和六二年八月三一日付けで原告を解雇したと主張している。

4  原告は、右解雇当時、毎月二〇日締めで二五日に給与の支給を受けており、昭和六一年九月分から昭和六二年八月分までの一年間で合計四八八万三三一七円(昭和六二年四月分のうち子供の入学祝金一万円を控除した額である。)の給与の支給を受けたが、これから年間通勤手当の合計一三万五一二〇円を控除した金額(四七四万八一九七円)の一か月平均は、三九万五六八三円となる。

また、被告は、昭和六二年以降主任以下の従業員に対し、賞与として、同年夏季分(同年七月二〇日支給)平均四四万二一〇〇円、同年冬季分(同年一二月九日支給)平均五二万一九〇〇円、昭和六三年夏季分(昭和六三年七月八日支給)平均六〇万三〇〇〇円、同年冬季分(同年一二月九日支給)平均六〇万五四〇〇円、平成元年夏季分(平成元年七月一〇日支給)平均七三万円、同年冬季分(同年一二月一五日支給)平均八二万一〇〇〇円をそれぞれ支給しており、原告は主任より上位の課長職にあり、少なくとも右平均額と同額の賞与を受け得たものである。

5  よって、原告は、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、昭和六二年九月以降毎月二五日限り三九万五六八三円の給与と昭和六二年から平成元年までの賞与合計三七二万三四〇〇円及びこれに対する平成元年一二月二二日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実はいずれも認める。

2  同4のうち、原告が毎月二五日に給与の支給を受けていたこと、原告の昭和六一年九月分から昭和六二年八月分までの給与合計及び一か月平均額が原告主張のとおりであること並びに原告より下位の主任以下に対し原告主張のとおり賞与が支給されたことは認め、その余の事実は否認する。給与の締切日は、毎月一〇日である。

三  抗弁(解雇)

1  被告は、昭和六二年八月三一日、原告を解雇した(以下「本件解雇」という。)。

2  被告の就業規則によれば、「社員の行状または勤務成績が社員として勤務させるのに適当でないと認められるとき」(就業規則六七条一項四号)には、被告は当該社員を解雇することができる。

3  解雇理由

(一)(1) 原告は、昭和四五年九月七日夜、酒気を帯び社内に立入り、大声を出して業務を妨害し、業務中の社員に迷惑をかけ、これを制止した上司に怪我を負わせる暴力行為を働き、また、社外においても第三者に対し暴行を加えるなどして被告の対面をけがす行為をした。このため、原告は、同月一九日付けで制裁休職一か月の処分を受けた。

右行為は、被告の就業規則に定める制裁解雇事由に該当するものであるが、原告が顕著な改悛の情を示し、また本人の日常の勤務成績等を考慮して、被告は情状酌量のうえ制裁休職一か月の処分に止めることとし、原告に右処分をした。

被告は、本件解雇の理由として、原告の入社当初からの行状を主張することができると解すべきである。原告の右行状をみると、同人は、極めて粗暴であって、被告の従業員としての適格性を欠くものということができる。

(2) 原告は、昭和四六年一二月二〇日夜、飲酒酩酊のうえ、横浜駅東口において、タクシー指導員二名に暴行を加えて傷害を負わせた。

原告の右行為は、二度目の暴力事件であること、原告が交通事故キャンペーンを行っていた被告の従業員、特に直接キャンペーンに携わる報道部員であって、この種の社会悪に対しては自ら襟を正すべき立場にあるにもかかわらず、あまりにも自制心がなく、社員としての適性に欠けること、被告の信用を著しく損なう行為であることから、解雇あるいは制裁解雇事由に該当するものである。しかし、原告から始末書の提出があり、反省の色が顕著であること、被害者と円満に示談が成立したこと等情状を斟酌して、誓約書を提出させたうえで、被告は、昭和四七年一月二六日付けで制裁休職一か月に処した。

原告の右行状をみると、その言動が極めて粗暴、粗野であり、原告は、被告の従業員としての適格性を欠いている。

(3) 原告は、昭和五五年三月三一日発生した川崎市職員殺害事件の報道をめぐり、過激派の反撃が予想されるなど不穏な情勢があり、上司からこの種事件の取材及び放送は今後絶対に行わないよう厳重注意されていたのにこれを無視し、被告の製作局報道部社員であった小枝義人から相談を受け、雑誌「ゼンボウ」に寄稿するよう指示し、あえて雑誌への手記の寄稿を仲介するなどした。

会社という組織体の構成員である原告としては、取材活動の結果入手した情報を社外に発表するに際しては、被告の方針又は定める手続に従って被告の承認のもとで行うべきである。原告は、このような従業員としての基本的義務を懈怠し、被告の指示を無視して雑誌への手記の寄稿を仲介したものである。原告の右行為は、会社の組織の一員として会社の指示、規則を遵守する意思が極めて希薄な証左であり、そこに示された原告の行状は、従業員としての適格性を欠くというべきである。

原告の右行為は、制裁解雇事由に該当するが、被告は、情状酌量のうえ、昭和五六年三月九日付けで制裁休職三か月の処分をした。

(4) 以上のとおり原告は入社以来三回の懲戒処分に処せられており、その行状は入社当初から従業員として勤務させるのに適当でないと認められたが、原告がその都度真摯に反省する旨の態度を示したため、被告は原告を解雇しなかった。しかるに、原告の後記(二)及び(三)の行状をみると、原告は、会社の組織の一員として勤務する意思を全く喪失しているとしか認められず、過去の原告の行状と総合勘案すると、前記就業規則六七条一項四号に該当する。

(二)(1) 原告は、昭和六二年二月三日、被告に無届けで日本政治経済研究所主催の講演会の講師として「日航に対する共産党のゆさぶり工作の全貌」と題する講演を行った。

(2) 被告の就業規則七条二号には、業務に関する講演、原稿執筆、出演等をする場合には予め被告に届け出て承認を受けなければならないと規定されており、原告はこれを承知していたにもかかわらず、事前の届出をせず、右講演を行った。

(3) 原告の右講演内容は、原告が以前に出版しようとした著書の内容と同趣旨であるが、右執筆の際はその届出をし承認を受けているものの、右出版をめぐり種々の報道がなされるなどし、結局出版することができなかった。なお、右著書をめぐり種々の報道がなされ、原告に関し不明朗な噂が流布されたことから、原告は、上司から右内容についての出版等をしないよう指示された。

また、原告は、同年一月一六日、同年二月二日、三日の年次有給休暇を届け出たが、その理由として「法事その他」と記載されていたので、南丘喜八郎報道部長(以下「南丘」ということもある。)から理由の明示を求められ、改めて「法事及び裁判打合せ」を理由として記載した。(右裁判打合せは、同年一月二〇日ころに、同年二月三日の予定が同月四日に変更されていたが、その変更届も出されていない。)が、原告の前記講演は、右有給休暇届出より前に決定されていたのであり、右届出は虚偽の内容である。

(4) 原告のこのような行為は、前記(一)の(3)で述べた被告の従業員としての基本的義務を懈怠しているにとどまらず、被告の指示を無視して独立のジャーナリストとしての行動をあえてしているというべきである。特に、右講演は、被告の営業政策上マイナスに作用することが危惧され、被告から出版等をしないよう厳に指示されていたのであるから、被告の従業員としての自覚があれば、右講演依頼のあった時点で被告に相談し、その承認を求めたはずである。原告がこれをしなかったのは、前記の経過から、届出をすれば不承認となると考えたからであり、原告は、このとき既に被告の従業員としての立場を放棄して、独立のジャーナリストとしての行動に踏み切っていたとしか考えられない。

このように、原告は、従業員の立場を放棄したものというべきであるから、もはや被告の社員として勤務させるのに適当ではなく、就業規則六七条一項四号に該当する。

(三)(1) 原告は、昭和六二年八月二一日、被告代表取締役社長駒村秀雄(以下「駒村」ということもある。)を被告として、名誉毀損を理由とする損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提起した。

(2) 右名誉毀損とされている内容は、被告代表取締役である駒村が、昭和六二年三月、東京同盟書記長の天井修らに対し、原告が各界うらばなしという番組を利用して企業を恐喝している旨虚偽の発言をしたというものである。しかし、駒村秀雄は、右訴えにおいて主張されているような発言を全くしていない。原告の右訴えは、無根の事実を理由とするものである。

(3) 右提訴の事実は、同年七月二七日発刊(同月二八日付け)の夕刊フジでその内容とともに報道され、同年九月九日付けの東京新聞等でも報道されたが、これらは、原告が右提訴の事実を公表し、訴状を配付して、その資料を提供したものである。

(4) 原告は、現に被告の社長である駒村が具体的に如何なる発言をしたのか正確に確認することもなく、また駒村に対し名誉回復の措置を請求することもしないで訴えを提起し、しかも、同人が発言していないにもかかわらず、社長の発言と主張する極めて不正確な内容を記載した訴状をもって、ことさらに社員の名誉を毀損する人物であるかのように言いなし、あえて報道機関を利用して一般公衆に知らせたものであって、このような原告の行為は、被告の名誉、信用を著しく毀損するものである。原告の右のような行為は、会社従業員として社会通念上許すべからざる行為である。

原告としては、駒村の誤解を解く努力をし、同人に告げるとか訂正を求めれば足りるのであって、このような努力をせず、前記行為に出て、その結果被告の名誉、信用を著しく毀損しており、原告は、組織の一員として働く意思を全く放棄したものといわざるをえず、社員として勤務させるのに適当でない。

(5) また、原告は、アール・エフ・ラジオ日本労働組合の陰のリーダーとして同組合の要求を有利に実現するため、被告の新社長である駒村に圧力を加える目的をもって、右訴えを起こしたものである。このような原告の行為は、もはや被告の従業員として稼働する意思を放棄したものといわざるをえないのであって、原告を被告に勤務させるにふさわしくない。

(四) 本件解雇の相当性

前記(一)の(1)及び(2)の各事実は、原告の言動が極めて粗暴な証左であり、同(3)の事実は原告に被告の従業員として被告の指示、規則を遵守するという意思が極めて希薄なことの証左であるばかりでなく、(1)ないし(3)は、原告のその後の(二)及び(三)の行為をみると、原告が真に反省していなかったことが明らかとなったもので、これを本件解雇の理由とすることは許される。

また、前記(二)の行為は、原告が被告の承認を得られないことを知りながら、あえて虚偽の休暇届を提出して、講演を強行したものであって、この時点において、原告はもはや被告従業員として被告の指示、規則のもとで働くという意思を喪失し、独立のジャーナリストとして行動するに至ったというべきであり、このことは、前記(三)の行為により一層明らかになった。原告は、被告代表者が前記のような非公式会談において原告の人物像について誤解を与えるような発言をしたと聞いたのであれば、その相手の誤解を解く努力をし、被告代表者に確認し、その訂正を要求すれば足りるのであって、このようなことをせず、前記のような行為に出て、被告の名誉、信用を毀損した。

原告の以上の一連の行状は、まさに「社員として勤務させるのに適当でない」状態にまで達した。

したがって、原告には、前記就業規則六七条一項四号に定める解雇事由があり、本件解雇は有効である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1及び2の事実は認める。

2(一)(1) 同3の(一)(1)及び(2)並びに(3)のうち原告が被告主張の事由により被告主張の内容の制裁処分を受けたことは認め、その余は争う。

(2) 同(1)ないし(3)の各行為については、既に被告により処分がなされており、また、本件解雇より相当前の行為であるから、いずれも本件解雇の理由とはなりえない。

(3) 同(3)の原告の行為は、原告が株式会社全貌社から紹介を依頼されて被告の小枝義人を紹介したにすぎず、仲介行為には該当しないのであり、また、そもそも仲介行為は処分の理由にはなりえない。

(4) 同(4)は争う。

(二)(1) 同(二)(1)の事実は認める。

(2) 同(2)のうち、原告が右講演の届出を被告にしなかったことは認める。右講演の内容は、業務とは関係のないものであるから、被告に届け出る義務はない。

(3) 同(3)のうち、右講演の内容が原告の著書の内容と同趣旨であり、右執筆の際は届出をして承認を得ていること、右出版をめぐり種々の報道がなされるなどし出版することができなかったこと及び原告が同年一月下旬ころ同年二月二日、三日は法事と裁判打合せのため休暇するとの届出を被告に提出したことは認め、原告が虚偽の休暇届をしたとの点は否認する。

(4) 同(4)のうち、原告が被告の不承認を予測して講演の届出をしなかったとの点は否認し、その余は争う。

(三)(1) 同(三)(1)の事実は認める。

(2) 同(2)のうち、無根の事実を理由とする訴えであるとの点は争う。

(3) 同(3)のうち、原告の提訴が被告主張のとおり報道されたことは認め、原告が資料を提供したとの点は否認する。

(4) 同(4)は争う。

裁判を提起する権利は原告にも保障されており、提訴を処分理由とすることは不当である。また、報道機関への訴状の配布に関しては、裁判が公開されていることから秘密にしておく理由はない。更に、原告の提訴は、被告の代表者個人らを相手とするものであるから、そのこと自体が被告の名誉、信用を毀損するものとはならない。

(5) 同(5)は争う。

(四) 同(四)は争う。

原告は、昭和五九年二月一日課長に昇格したが、この時点では、被告は、抗弁3の(一)(1)ないし(3)の行為を問題としなかったのであるから、その後になって右行為を理由に勤務成績が極めて悪いとするのは矛盾である。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1(被告の目的)及び2(原告の雇用)の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁(解雇)について判断する。

1  抗弁1(本件解雇)及び2(解雇事由の定め)の各事実は当事者間に争いがない。

2  同3(解雇理由)について

(一)  同3の(一)(原告の過去の行状等)について

(1) 同3の(一)(1)のうち、原告が昭和四五年九月七日夜、酒気を帯び社内に立入り、大声を出して業務を妨害し、業務中の社員に迷惑をかけ、これを制止した上司に怪我を負わせる暴行を加え、第三者にも暴行を加え、そのため被告から同月一九日付けで制裁休職一か月の処分を受けたことは、当事者間に争いがない。

被告は、原告の右行為をもって、被告の従業員としての適格性を欠くと主張する。しかし、右行為は、本件解雇より一七年近く前の行為であるから、その翌年に同種の暴行事件である後記(2)の行為があるとはいえ、右行為をもって、本件解雇の時点において、「社員として勤務させるのに適当でないと認められるとき」に該当すると認めることはできない。

(2) 同(2)のうち、原告が昭和四六年一一月二〇日夜、飲酒酩酊のうえタクシー指導員二名に暴行を加えて傷害を負わせ、そのため被告から昭和四七年一月二六日付けで制裁休職一か月の処分を受けたことは、当事者間に争いがない。

被告は、右行為をもって、社員としての適格性を欠くと主張する。しかし、右行為は、本件解雇より一六年近く前の行為であり、右(1)の行為により制裁処分を受けてまもなくの行為であるとしても、右行為をもって、原告が本件解雇時点において、社員としての適格性を欠くものと認めることはできない。

(3) 同(3)のうち、原告が株式会社全貌社から紹介を依頼されて被告の小枝義人を紹介したことは、当事者間に争いがない。(証拠略)によれば、原告が昭和五五年三月三一日発生した川崎市職員殺害事件の報道をめぐり、過激派の反撃が予想されるなど不穏な情勢があり、上司からこの種事件の取材及び放送を行わないよう厳重注意されていたにもかかわらず、小枝に雑誌への手記の寄稿を仲介し、そのため被告から昭和五六年三月九日付けで制裁休職三か月の処分を受けたことが認められ、右認定に反する原告本人の供述は、右各証拠に照らし採用することができない。

しかし、原告の右行為は、本件解雇より約六年も前の行為であり、右行為をもって、原告が本件解雇時点において、社員としての適格性を欠くものと認めることはできない。

(4) 以上認定のとおり、抗弁3の(一)の各行為は、いずれも本件解雇理由としての「社員の行状または勤務成績が社員として勤務させるのに適当でないと認められるとき」(就業規則六七条一項四号)には該当しないものと認められる。

被告は、原告が入社以来三回の懲戒処分に処せられ、その行状は入社当初から従業員として勤務させるのに適当でないと認められたが、原告がその都度真摯に反省する旨の態度を示したため、被告は原告は解雇しなかったにもかかわらず、原告の抗弁3の(二)及び(三)の行状をみると、原告は、会社の組織の一員として勤務する意思を全く喪失しているとしか認められず、過去の原告の行状と総合勘案すると、被告の就業規則六七条一項四号に該当すると主張する。しかし、原告は、いずれも解雇処分を受けずに、制裁休職の懲戒処分を受け、その後勤務に就いていたのであるが、本件全証拠によるも、その後原告に後記(二)及び(三)の行為があるまで、特に問題となる行為があったものとは認められず、更に、右各行為は本件解雇より相当前の事柄であるから、原告の以上の行為と処分歴をもって、社員として勤務させるのに適当でない行状であったと認めることはできない。したがって、原告の右行状が前記解雇事由に該当するということはできないから、被告の右主張は採用することができない。

(二)  同3の(二)(無断での講演)について

(1) 同3の(二)(1)(講演)の事実は当事者間に争いがない。

(2) (証拠略)によれば、被告の就業規則七条に、社員は業務に関し新聞雑誌等に寄稿し、または出版、講演、出演等をなす場合には、予め会社に届け出てその承認をうけなければならないと規定されていることが認められる。

前記認定のとおり、原告は、被告に無届で前記の講演を行ったものである。被告は、右講演について、右の就業規則の規定により被告に届け出てその承認を受けなければならないと主張する。なるほど、右講演の内容が原告がそれ以前に出版しようとした著書の内容と同趣旨であり、右執筆に際しては原告が被告に届け出てその承認を受けており(右各事実は当事者間に争いがない。)、また、(証拠略)によれば、原告が担当していた被告のラジオ番組「各界うらばなし」に日本航空に関するテーマが取り上げられ、放送されたことが認められる。しかし、右講演の内容が右の放送で取り上げられた内容と関係があることを認めるに足りる証拠はない。また、右講演の内容が、原告が業務上の取材活動により得たものである等業務と関連するものであることを認めるに足りる証拠はない。原告本人尋問の結果によれば、右出版については被告の社員である旨の肩書きがついたので届出をしたことが認められ、右届出をしたことをもって、その内容が業務に関するものであると推認することはできない。

以上によれば、原告の右講演が業務に関するものであることを認めることができないから、原告に右講演をするについて被告に届け出てその承認を受ける義務があるということはできない。したがって、原告に右届出義務があること前(ママ)提にその懈怠を非難し、社員として勤務させるに適当でないとする被告の主張は理由がない。

(3) 当事者間に争いがない事実及び(証拠略)によれば、原告が昭和六二年一月一六日同年二月二日、三日の年次有給休暇の届出をしたこと、その後南丘報道部長の指示により休暇の理由として法事及び裁判打合せと記載したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

被告は、当時既に右講演を行うことが決まっており、また、裁判の打合せが同月四日に変更されていたにもかかわらず、虚偽の届出をしたと主張する。しかし、原告が右休暇の届出をしたころに既に前記講演を行うことが決定していたことを認めるに足りる証拠はない。(〈証拠略〉の原告作成の顛末書には、同年一月中旬ころに右依頼があったとの記載があるが、右一月中旬が同月一六日より前であるということはできないから、原告が当初休暇の届出をした時点で右依頼があったことを認める証拠として採用することはできない。)。また、裁判の打合せの変更が原告に知らされたのが右休暇の届出より前であったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告が虚偽の休暇届をしたものと認めることはできない。なお、右休暇届をした後、裁判の打合せの日が変更されたことを被告に届け出なかったことをもって、社員としての適格性を欠くものと認めることはできない。

(4) 原告の前記講演の内容が以前出版しようとした著書の内容と同趣旨であることは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、右著書が出版されず、右著書をめぐり種々の報道がなされるなどしたため、原告の上司から今後当分の間出版等をしないよう指示されたことが認められる。右事実によれば、就業規則上その届出義務があるものとは認められないものの、原告が上司等に断ることなく前記講演をしたことは、いささか社員として配慮を欠くといわざるを得ない。しかし、(証拠略)によれば、原告の前記講演は、定員五〇名の講演会におけるものであり、その出席者も主催者である日本政治経済研究所の会員会社の人事労務担当者、管理者等であることが認められ、人数も比較的少ないこと、右のような講演会の性格、前記認定のとおり右講演と同趣旨の原告の著書の出版を被告が一旦は承認したこと及び原告に就業規則上の届出義務があるものとはいえないことに照らすと、原告が被告に届け出ることなく講演を行ったことをもって、原告が被告の指示を無視し、従業員の立場を放棄して、独立のジャーナリストとしての行動をとったものと認めるのは相当でなく、社員としての適格性を欠くものとまで認めることはできない。

(三)  同(三)(被告代表者に対する訴えの提起)について

(1) 同(三)の(1)(原告の被告代表者に対する訴えの提起)の事実及び(3)のうち右提訴の事実が被告主張のとおり新聞紙上に報道されたことは、いずれも当事者間に争いがなく、原告が提訴した訴訟において名誉毀損とされる内容が被告主張のとおりであることは、(証拠略)により認められる。原告が自ら提訴の事実を公表したり、訴状を配付したりしたことを認めるに足りる証拠はない。

(2) 被告は、原告の右提訴及び報道により被告の名誉、信用が著しく毀損され、原告が社員として勤務させるのに適当でないと主張する。

(証拠略)の結果によれば、被告と被告の従業員で組織するアール・エフ・ラジオ日本労働組合との間で未解決の問題があったことなどから、同組合の加盟する東京同盟の指導を依頼することとなり、被告代表者社長駒村秀雄(当時は副社長)と南丘喜八郎報道部長とが東京同盟の天井修書記長らと昭和六二年三月に三回にわたって会談したこと、その際、右南丘が、原告らがアール・エフ・ラジオ日本労働組合に大きな影響を与えていることや、原告に関し放送番組を利用して企業を恐喝していると受け取られるような噂がある旨の発言をしたこと、右駒村は、同席していて南丘の発言について訂正することもなく、相槌を打つなどしていたこと、原告は、右組合の役員であった黒水らから天井書記長からの話として、駒村らが原告のことを番組を利用して企業から恐喝をしているなどと発言したと聞いたこと、そのため、原告は、駒村らに発言内容の確認やその訂正を求めることはしなかったが、名誉の回復を求めて前記提訴に至ったこと、以上の事実が認められ、右認定に反する(証拠略)は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

自己の名誉が毀損されたと考える者がその回復を求めて損害賠償請求等の訴訟を提起することは、たとえそれが自己の勤務する会社の社長に対するものであっても、原則として非難されるべきことではない。訴えを提起する前に直接その訂正を求めるなどして名誉回復の措置を請求することも一方法ではあるが、それをしないからといって、社員としての適格性を欠くものと認めるのは相当でない。また、仮に、右請求が理由がないものであっても、そのことによって直ちに右提訴の事実をもって社員としての適格性を欠くものと認めるのは相当でない。そして、原告の前記損害賠償請求が明らかに理由がないと認めるに足りる証拠はなく、かえって、前記認定の駒村らと天井らの会談での発言内容、原告が伝え聞いた会談での発言等からすれば、原告の請求が明らかに理由がないものということはできないから、たとえ右提訴やその報道の結果被告の名誉、信用が害されたとしても、そのことによって原告に対する解雇が有効であるとするならば、事実上右提訴が制約されることとなり、不当である。したがって、前記被告主張の事由をもって、原告が被告の社員としての適格性を欠くものということはできない。

(3) また、被告は、原告が社長の誤解を解く努力等をしないで提訴し、被告の名誉信用を毀損したことは、組織の一員として働く意思を全く放棄したものであるから解雇事由があると主張する。しかし、右のように原告が被告代表者らに誤解を解く努力をしなかったからといって、自ら組織の一員として働く意思を全く放棄したものと認めることはできず、右主張は理由がない。原告が新聞記者に対し、右提訴の理由について、このまま去ったのでは負け犬になる旨の発言をしたとしても、そのことが原告が被告の一従業員として働く意思を全く放棄したものと認めるのは相当でない。

(4) 更に、被告は、原告の右提訴の目的が前記組合の要求を実現することにあったと主張する。しかし、仮に、原告に被告主張の右目的があったとしても、そのことのみを目的としていたのであれば格別、そうでなければ、解雇事由である「社員として勤務させるのに適当でないと認められるとき」には該当しないと解すべきである。そして、(証拠略)によれば、原告が右損害賠償請求訴訟において訴えを取り下げることなく第一審判決を受けたことが認められ、右事実と前記認定のとおり原告が名誉の回復をも求めて提訴に至ったことに照らし、原告の右提訴の目的が前記組合の要求を実現することにのみあったと認めることはできず、被告の右主張は理由がない。

(5) 以上認定のとおり、抗弁3の(三)は、いずれも理由がない。

(四)  被告は、抗弁3の(一)ないし(三)の原告の一連の行為をもって前記解雇事由に該当すると主張する。しかし、原告の抗弁3の(一)(1)ないし(3)の各行為並びに前記認定の(二)及び(三)の各行為をみても、原告が前記(一)の各処分時点において真に反省していなかったものと認めることはできないし、右(二)及び(三)の各行為が、それ自体就業規則に違反するとか社員として勤務させるのに適当でないとかいうことはできないのであるから、原告の前記行状が、本件解雇時点において、解雇理由である「社員としての勤務させるのに適当でないと認められるとき」に該当すると認めることはできない。

(五)  以上によれば、本件解雇は、就業規則に定める解雇事由を欠くものであるから、無効である。したがって、抗弁は理由がない。

三  請求原因4のうち、原告の給与支給日、本件解雇前一年間の給与合計額及び一か月の平均額並びに被告が主任以下に支給した平均賞与額及びその支給日の各事実は、当事者間に争いがない。弁論の全趣旨によれば、給与の締日が毎月一〇日であることが認められる。

前記認定のとおり、本件解雇は無効であるから、原告は、昭和六二年九月以降被告の社員としての地位があり、同月以降の賃金請求権を有する。そして、原告は、同月以降少なくとも本件解雇前一年間の平均月収額である三九万五六八三円の支払を受け得たものと認めるのが相当である。

しかし、賞与については、原告が原告より地位の低い主任以下に支給された賞与の平均額以上の賞与の支給を受け得たものと認めるに足りる証拠はなく、その支給額を認めるに足りる証拠はないから、原告が主任以下に支給された賞与額以上の支給を受け得たとする主張は理由がない。

四  よって、原告の本訴請求は、被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後の昭和六二年九月以降毎月三九万五六八三円の給与(毎月二五日限り。本件口答弁論終結時である平成二年一月一九日までに支払期の到来した分の合計は一一〇七万九一二四円である。)の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内民生)

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